朝日新聞  2006年(平成18年)11月8日 水曜日

水のある風景 水琴窟 澄んだ癒しの音

水琴窟(すいきんくつ)。地中の甕(かめ)に落ちた水滴が反響して奏でる琴のような音色を楽しむ。わび、さび文化の象徴のような日本庭園の装飾装置が、静かなブームになっているという。澄んだ音が騒音の中で暮らす現代人の癒やしになっているらしく、古寺、茶室、料亭から徐々に「町なか」へ広がっている。

地上式を考案 甕は地中に埋まっているのが普通だが、赤穂市塩屋の長棟造園(代表・長棟成光さん)では、地上式を考案した。手洗い式やテーブル式などのほか、レンタル、リースもOKという室内用も用意した。

いずれも、最大の長所は掃除が簡単なこと。泥や落ち葉が溜まりやすい地中式の欠点を解消した。公園、病院、老人福祉施設のほか民家からの注文もあった。最近では海外からの問い合わせもあるという。

遠州創設説も また甕は地中のまま、「ししおどし」を利用したタイプも見本として作っている。
水琴窟は、茶席の待合などで手を洗った水を利用したのが始まりといわれ、江戸時代の庭園家小堀遠州が創設したとの説がある。
決め手は「甕」 長棟さんは、外見や実用性だけでなく、水琴窟の命である音にこだわる。良い音の決め手は甕。空間が狭いと、音が「ピン」と硬く、大きいと低くなる。甕を焼いた温度が高ければ、高音になる。江戸時代の水琴窟の甕を参考にした高さ60センチ、幅50センチ、高温で焼成した甕が最もいい音が出ると、長棟さん。

落ちる水滴の大きさも影響する。同造園では、甕の上部に「鳴り板」を置いて、大きな水滴をリズミカルに落とす工夫をしている。「人それぞれ合う音がありますから」。長棟さんによると、同じ水琴窟でもまったく同じ音は2度と出ない。その神秘性も人気の秘密かもしれない。

生物の命に欠かせない「水」。その水を求めて県内各地を訪ね、人と水とのかかわりを探ってみたい。