相生ライフ  2013年(平成25年)7月21日 日曜日

水琴窟の音色に魅せられて

水茶道が庶民の生活の中に広がり始めた江戸中期のころに、庭師の遊び心から作り始められたという水琴窟。現代の生活様式では見ることも少なくなったが、趣のある日本庭園などで水滴が醸し出す音色を耳にしたことはないだろうか。

庭園文化の一つである水琴窟の音色に魅せられたという長棟州彦さんは、石川島播磨重工業の養成校2期生として卒業後、14年間造船業に携わっていたが、家業の造園業を継ぐため退職。退職金で資材置場を造るために購入した山から、焼き物に最適の粘土が出土する。以前から陶芸にも興味があったことから、地元赤穂で幻の焼き物となっていた雲火焼を独学で始めた。試行錯誤を重ねながら平成元年、田部美術館主催の「茶の湯の造形展」で初入選を果たし、平成5年には兵庫県伝統的工芸品に指定される。

造園業と陶芸家という多忙な日々を過ごしていた17年ほど前、岡山県の吹矢ふるさと村にある広兼邸、澄み切った水琴窟の音色に感動する。

水琴窟は、瓶の大きさや焼き具合、水滴板などによって微妙に音色が変わってくる。長棟さんがこれまで携わってきた全ての仕事の技能や知識の集大成として、また新たな挑戦が始まった。試行錯誤を繰り返しながらさまざまな遊び心を取り入れた作品が生み出された。「団塊の世代の私たちは、新しいことに挑戦できるいい時代でした。今の若い人たちは社会状況も違って大変だと思いますが、失敗を恐れずいろいろなことに挑戦してほしいですね」。

瀬戸内の海が一望できる桃井ミュージアム(赤穂市御崎)の庭園は水琴窟パークといっても過言ではなく、巨大石臼の水琴窟や手洗い水琴窟など、地中型と地上型の7つの水琴窟オブジェが点在する。それぞれに趣向を凝らした水琴窟は音色も違い、長棟さんの熱い思いが伝わってくるようである。